古武道 (テレビ東京・月曜特集より)

 長い間探していた映像がついに見つかりました。20年ほど前にテレビ東京にて「古武道」という特別番組が放映されたという話は以前から伺っていて、非常に綿密な取材を基にして古武道の紹介にあたった伝説の番組と聴いています。しかし、さすがの私も当時はビデオに録画しているはずがなく、Youtubeやニコニコ動画に断片的に上がっていた映像を繋いで、飛び飛びで内容を視聴出来るに過ぎませんでした。


 ところがついに先日、Youtubeにて完全な形でこの番組を見ることが出来るとわかりました。ネット上の古武道動画をよく見ていらっしゃる方ならば、この久米明さんの渋いナレーションに聞き覚えがあるかと思います。これまでの断片的な動画ではカットされてしまったシーンや、画質が悪くて細かく見られなかったシーン(例えばタイ捨流の山北先生の居合のシーンなど)もしっかりと映っているのが特徴です。

 全部で8分割されている長い番組ですが、再放送の可能性が限りなく低い現状、ネット上で見られる古武道関連動画としては最大級の価値を持っていると思います。今日、ここまでしっかり取材された古武道の番組を見ることは、今となっては難しいかもしれません。番組ディレクター氏の言動にやや非礼な印象を感じないでもありませんが、日本の古武道の魅力を伝え得る名番組として、多くの方にお勧めしたい動画です。


 現在、古流の先生方もだいぶ御高齢になられていて、戦前~昭和中期頃までの厳格な修行を経験された方は少なくなっておられると思います。古武道の世界も世代交代が進んでおり、昔日の修行者の技を映像の形で残せるのは、おそらく今が最後の時代と考えられます。映像に記録することが全てだとは思いませんが、それでも貴重であることは確かです。



古武道 1/8

 OPタイトル~尾張貫流槍術(愛知)まで

 現在も名古屋春風館道場にて、新陰流などと共に伝えられている貫流槍術。 防具をつけての地稽古を今も行っている数少ない流派です。戦前は武徳会などで槍の試合は行われていたようですが、戦後は槍術流派自体が致命的に消失していったため、見ること自体が稀となっています。
 注目は6:28頃の加藤伊三男師範がカメラに向かって繰り出す突きの精度。槍の操作自体は比較的単純ですが、シンプルであるがゆえに「突きの精度」に稽古者の実力がはっきり表れると言われます。槍は非常に長くて重い得物ですから、正確に真直ぐ突いて素早く引くと言う動作だけであっても、かなり高度な身体操作が要求されるものです。この加藤先生の突きの異様なスピードと正確性を見ると、モニタの前でも冷たい汗が出ます。


 長いので、2/8以降は下に格納します。 ↓


古武道 2/8

タイ捨流剣術(熊本)~ 示現流剣術(鹿児島)

 熊本の名流として龍泉館道場で伝承されているタイ捨流剣術。現在は13世の山北竹任師範から14世の木野敬夫師範に伝承が引き継がれています。またこの番組でコメンテーターを務めている加来耕三氏はタイ捨流の免許皆伝を有していることでも知られていますね。跳ねる、蹴る、投げる、手刀で突くといったように体術を多く取り入れた荒々しい動きの中に、新陰流系統ならではの精密な技術を内包した剣術です。

 薩摩の剛剣として時代劇や幕末ファンの間でもよく名前が知られている示現流剣術。もっとも薬丸自顕流と混在して認識されることも多いため、本来の示現流の姿を見る機会は意外と少なかったりします。あの耳に残る独特の気合いは本当に恐ろしい。今回一番驚いたのは、あの頑丈そうな木刀の鍔が紙こよりで出来ていたということかもしれません。私は今まで知りませんでした。


古武道 3/8


古武道 4/8


古武道 5/8

 3~5まで天真正伝香取神道流剣術(千葉)

 この番組で一番長い収録時間を誇るのが、千葉県は香取の地に伝わる天真正伝香取神道流剣術。剣術・槍術・薙刀術・棒術・居合術・柔術・手裏剣術などといったあらゆる武器の遣い方を伝える総合武術の流派です。人体のどこをどう切るとどうなるかという口伝が多く伝わっているだけあって、大竹利典師範の解説は非常に理論明快で実戦的です。近年ではあまり外部に公開しなくなった口伝なども、この番組では実例を交えて説明しており、物凄く勉強になる資料となっています。


古武道 6/8

大東流合気柔術(東京・近藤勝之先生の系統)~小堀流踏水術(熊本)

 大東流は日本各地にいくつかの系統がありますが、この番組で紹介されている近藤先生の系統は、武田惣角先生→武田時宗先生の流れを組む、いわゆる旧大東館の系統に属しています。また近藤先生は和時計の研究者としても知られていますね。技を掛けられている人が物凄く苦しそうにしていますが、これはオーバーではなく大東流の技をかけられると本当に絶叫するほど苦しいです。大東流の技は本気でかけられると非常にえぐいことになるので、とても恐ろしいです。

 小堀流踏水術はいわゆる「古式泳法」の一派で、現代の水泳とは多少異なるスタイルの泳ぎが伝わっています。現代の水泳競技が「決められたプールのコースを如何に速く泳ぐか」を競うのに対し、古流泳法は「堀や海、流れの急な川などの水場で、如何に自然に逆らわずに泳ぐか」を追求する泳法であると言えましょうか。また鎧甲冑を着たまま泳いだり、泳ぎながら刀や弓を扱ったりと、れっきとした武術としての機能を持っていることも特徴です。小堀流は特に「踏水術」と言うだけあって、シンクロナイズドスイミングばりの強靭な立ち泳ぎが特徴とされます。
 
 日本水泳連盟には古流泳法12流派が登録されていますが、他の古武道団体に比べて横のつながりが強く、持ち回りで定期的に研究会や水泳大会を開いているのが良いところです。


古武道 7/8

日本刀製作について~林崎夢想流居合術(山形)~竹之内流柔術(岡山)

 剣術を学ぶのであれば、少なからず日本刀に関する知識も必要になります。日本刀製作は極限の職人技によって成り立つもので、それを扱う身としてはきちんとした稽古を積まねば申し訳が立たぬというものです。ちなみに私の経験上、「剣術が好きな人」と「日本刀が好きな人」は全く別のパーソナリティを持っているように思います。日本刀が好きな人は概して居合の方に興味を持たれることが多い気がしますね。

 林崎夢想流居合術は、居合術を編み出したと伝えられる林崎甚助の流れを組む流派であり、居合の中でも最も古い形式をそのまま残している流派と言われています。中山博道先生がおっしゃるところの「林崎本流に学べ」ですね。
 特徴の1つは3尺3寸(約1m)の冗談みたいに長い刀を用いること、他には2人一組で形を行うところ等でしょうか。動作も剣術と言うよりは古流柔術の座捕りの様式に類似しています。
 個人的な推測ですが、多くの居合流派が座構えから稽古を始める理由は「座っている状態で襲われた時の対処法」という以上に、「稽古体系に古流柔術の教授法が組み込まれた」というのもあったのではないかなと考えています。もとより居合は「剣とやわらの中間の技術」として編み出されたと伝えられていますし、座構えで行う稽古は立構えよりも圧倒的に練習効果が高いですから、居合術創流の段階で柔術の教習方法を取りこんでいたとしても不思議ではないと思います。新庄藩系の林崎夢想流や、弘前藩系の神夢想林崎流・林崎新夢想の柔術っぽい動き、そして林崎甚助の直弟子が開いた関口新心流が居合・柔術・剣術を三位一体で重視していること等を考えると、柔術と居合の関係性は非常に深いもののように考えられます。



古武道 8/8

竹内流柔術(岡山)

 竹内流柔術は日本で最も古い時代に体系化されたとされる柔術です(伝承だけでいえば諸賞流の方が古い可能性もありますが)。柔術と言っても投げるばかりではなく打撃も多く用いるほか、他に剣術や槍術などの多種多様な武器術も合わせて伝える総合武術であります。またこの流派からはさらに多くの武術が派生しており、日本の武道のなかでも非常に重要な位置を占める流派であると思います。
 古流柔術は素手対素手よりも、何らかの武器を併用することが基本的な考え方とされています。そのあたりは現代の柔道や格闘技と思想が異なる点かもしれませんね。




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.12 2011 武道 comment4 trackback0

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このVHSで録画したのがありDVDにうつしてあるので良かったらあげるよ。
2012.08.17 20:53
ニコラスP(NP)
 ようこそ当ブログへおいでくださいました。また映像をいただけるとのコメントまで仰っていただき、誠に感謝しております。

 実はこの記事を書いてしばらくした後に、道場の稽古仲間が当時の番組を録画されていたことがわかり、その方から映像をいただくことが出来ました。そのため、せっかくのご厚意をいただいたのに申し訳ありませんが、映像の方は大丈夫でございます。お申し出いただきありがとうございました。

 この番組、リアルタイムでは見ていなかったのですが、ここまで徹底的に古武道を取材した番組というのは、今では目にすることが出来ないものだと思います。非常に貴重な映像ですね。

 
2012.08.17 22:21
これ持っているよ
ちなみに私もこの放送で古武道に興味をもち、中国武術を扱った漫画、拳児の悪影響で実際に隣りの県(片道150キロ)まで出向き実際に中国武術や古流柔術の道場を探しだして学んだものです。
結果は有段制度なるもので挫折したりして最悪でした。
人それぞれの学ぶ環境や能力、目的など異なるのに数などで評価など出来がない。腐れランクが欲しくて学んだ訳ではないと中国武術の先生に言い放った記憶があります。
実際に学んでみないとわかりませんね。
現代武術を学ぶ者と知識が違いすぎるから。
2012.08.18 08:11
ニコラスP(NP)
 なるほど、そうした経験がおありだったのですか……

 よく「師は3年かけても探せ」と聞きますが、究極的には良師との出会いと、相性の良い道場との巡り合わせが全てなのだろうなと思います。私も今の師と出会う前にとある有名どころの道場に見学に行ったことがあるのですが、どうにも雰囲気が肌に合わず入門を見送った経験があります。全国的に学ぶ場が整備されている現代武道と異なり、古流系は地域性に縛られるため、道場選びの制限が大きいのがネックですね。

 ちなみにリアルタイム世代ではありませんが、私も拳児の影響は結構受けました。中国武術ブームが起こったおかげで日本の古武術への再注目の流れが生まれたのは僥倖だったと思います。
 
 

2012.08.19 00:01

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